約60年の歴史を持つ、ベネッセの基幹事業「進研模試」を運営する高校商品企画開発本部
―――小中高向けの「進研ゼミ」をはじめ、乳幼児向けの「こどもちゃれんじ」、マタニティ期向けの情報誌「たまごクラブ」と「ひよこクラブ」等がありますが、高校商品企画開発本部について詳しく教えてください。
廣川:B2B事業として高校領域の学校様に向けて、模擬試験「進研模試」や「スタディーサポート」を展開しています。模試事業は社内でも最も古い事業のひとつで、約60年の歴史があります。組織も大きく、全国の支社から学校営業を行う営業部門と、商品企画部門、システム部門などの複数の部門から成り立っています。
―――廣川様の普段の業務内容を教えてください。
廣川:商品企画、開発を行うアセスメント企画推進部 マーケティング・事業推進課の課長をしています。2年前にはじめて「マーケティング」という名前のついた部署ができました。私たちが扱う商品は「テスト」という特性上、正確性や安定性が重要で、機能や技術の向上を重視して事業を発展させてきたという歴史があります。いま、高校も入試も大きく変化しており、先生方も大変忙しくなっている現実があります。昔ながらの商品体験のままでは、お客様の不満足につながってしまうという危機感から、CXを設計できるように変わろう、と新設されました。
―――お客様とは、学校の先生のことでしょうか?
廣川:先生と生徒をお客様と捉えています。先生の中でも、これまでは採択権限のある先生との関係構築を優先していました。しかし、学校の採択構造もトップダウン型から、現場の先生方の使いやすさが重視されるように変化しています。マーケティング・事業推進課ができた2年前から「利用者の先生」にフォーカスをあてた顧客理解のあゆみをはじめました。
商品を変える前に、組織のマーケティングマインドを整える、地道な取り組み。
―――大学受験の多様化など高校生を取り巻く環境の変化は激しいですよね。先生も生徒も大変だと思います。マーケティング・事業推進課のミッションを教えてください。
廣川:各商品の改善をマーケティング視点でサポートするファシリテーション業務と、組織改革の2つを担っています。設立当初は、お客様の声を聞こうと部内で話していても議論がずれてしまうような、土台となるマーケティングマインドが揃っていない状態でした。今年の組織のスローガンは「行動変容」。商品開発スキルとして、「人を見に行く」「本当の欲求は言葉にできない」をベースマインドとして認識できるようにするとことから、取り組んでいます。
―――根本的な課題ですね。ベースマインドの醸成から、組織を変革していくというのは、非常にパワーが要りますよね。
廣川:思っていたより時間がかかることなんだと実感しています。まずは何ができていないかの洗い出しからはじめました。私が以前「こどもちゃれんじ」の部門にいた経験を活かして、感覚の違いを話すなど、私が講師を務めた部内研修をしてみたり、1年目はお客様アンケートを取るにも社内決裁が必要でしたが、3年目に入って少し変わってきたと感じています。全国の先生方にアンケートを取り、何が必要かリフレクションもできるようになりました。外部講師を招いた研修にも積極的に参加してくれています。あとは商品が変わるだけです。
―――変革は、組織を変えてから商品という順番ですよね。1つ1つ着実に行動変容させていらっしゃるのですね。
気合ではなく、アイデア開発の”正しい方法論”があることが、励ましに
―――デコムのインサイトフルをご受講された、きっかけ・決め手を教えてください。
廣川:約20年前から、大松さん(※1)を存じ上げています。こどもちゃれんじのプロジェクトを近くで見て、インサイトという考え方に、そうそれが大事だと思っていた、と強く共感して以来、書籍や記事を読んでいました。デコムさんに組織の課題感をご相談したタイミングで、DX人材開発部門が全社でインサイトフル研修を募集していることを教えてもらい、すぐに応募しました。自組織にデコムさんの研修を導入する前に、良い点を説明できるようにしておきたい、という意図もありました。
※1 デコム代表 大松孝弘
―――導入研修を受講されたご感想を教えてください。
廣川:残念ながら今の私たちは、大松さんが話された「インサイトフルな人材になるために獲得すべきスキル」の11個すべてでまだまだで「消費者理解が浅い人材」になっていたので、耳が痛い内容でした。実は1年半前に、新サービスを検討する社内プロジェクトで苦い経験をしたことがあります。新しいアイデアを皆で考えたけれど事業化には至らなかった。商品開発はこれまでの方法論や気合いだけではできないと落胆しました。しかし研修の中で、仮説の出し方には方法論がある、ということを教わり、私は励まされました。人の能力ではなくやり方があるんだと。やり方を変えれば、新サービスのアイデア開発をやり直せる、と勇気づけられました。
筋の良い仮説を20個持つ。アートを優先していく、仮説探索の大切さに気付いた
廣川:大松さんの初日の講義で、「仮説は10個持ってください、重要なら20個持ってください」という言葉がありましたが、私たちは圧倒的に仮説が足りない。これまでは、これじゃないかと思っているアイデアを、良いと言わせるようにしていただけだった、と気がつきました。
―――デコムでも”仮説の仮説”を大切にしています。界隈で流行っているマイクロトレンドや生活者のn=1の情報から”仮説の仮説”を出して、その中から20個ほどに絞り、筋の良い仮説を深掘っていきます。「仮説の数」は、アイデア開発の過程で非常に重要だと考えています。
廣川:大松さんが「サイエンスとアートでは、アートが先です」と断言されたのも印象に残っています。お客様アンケートで評価をとるようになりましたが、定量調査の数字だけでは、何も生まれないし上司を説得できないと、壁にぶつかっていたからです。アートが先になるような活動が出来ていなかったので、n=1を深く洞察すれば、次のフェーズに動いていくかもしれないと、励まされました。
―――デコムのクライアント様からも同じお悩みを多くいただきます。定量調査は仮説”検証型”の調査なので、過去に起こったことに対して全体の傾向を捉えることには向いていますが、そこから新たな顧客価値を見出すことは難しいです。仮説検証を行う前に仮説をアートで作っていかなければなりません。調味料ワーク(※2)はいかがでしたか?
※2 生活者のn=1事象から価値導出・アイディエーションを行う研修内のワーク
廣川:面白かったです!1日目は、自分で作ったアイデアに対して「本当に買いますか?」と聞かれて、「買わないです」と答えてしまうようなアイデアしか出せませんでしたが、時間を決めて強制的にアイデアを考えるという手法に学びがありました。 こんな短時間でも1個出せるなら、同じ方法でやれば沢山の仮説ができそうだと確信しました。また、自分にアンコンシャスバイアスがあることにも気づけたので、多様な価値観を持つメンバーと価値観をすり合わせながら行うことも大切だと学びました。
お客様の「感情」を捉えられる組織に変化
―――インサイトフル受講後、廣川様や部門の皆様にはどのような変化がありましたか?
廣川:お客様の「感情」が大切にされるようになったのが大きな変化です。メンバーから上がっている企画に、お客様の「感情」が捉えられているかを意識するように、私が口うるさく言っています(笑)。企画書フォーマットを作成して部内に浸透させるプロジェクトを有志のメンバーで推進してもらっているのですが、先日、「デビルインサイト」も考えて、そこに沿った施策にしてみてとアドバイスをしたところ、とても深い企画書になったんです。
―――デコムでもインサイト4要素の中で、「エモーション」を起点として価値を引き出すようにしているので、「感情」を大切にできるようになったことはとても重要な変化だと感じました。廣川さんから鋭い指摘を貰うことで、メンバーの方々も新しい観点でより深くお客様のことを考えられるようになりそうですね。
廣川:私はインサイトフル研修を受講して、一歩深くなれたと思います。直接欲しいものを聞かない等、お客様への質問の仕方も気を付けられるようにヒアリングフォーマットの改善にも取り組み始めました。 学校の先生は、デビルなことをあまりおっしゃいません。ですので、我々が先生方のデビルインサイトを代わりにくみ取ることで、先生方の厄介ごとを丸ごと引き受けられるような商品やサービスを提供することが大切なんだと、肌で感じています。
大松からの直接のフィードバックで隠れた適性を発見。組織変革まで「黄金の3割」を目指す
―――今回学んだことを今後、どういったことに役立てていけそうですか?
廣川:まずは、商品まわりのプロモーションや新サービス開発に活かしていきたいと思っています。個人的には、インサイトフルな人材を増やすことを実践していきたいです。研修中に大松さんに直接「廣川さんは新規っぽいことが向いている」とフィードバックいただけてとても嬉しかったです。また、大松さんからは「OSがアップデートされるような感覚になったら、できているということ。その感覚になったら、2度と元に戻らなくなるよ」というコメントもいただきました。私は今、株式会社ベネッセホールディングスのダイバーシティ推進部を兼務しているのですが、そこで学んだ「黄金の3割」という理論にも通じます。マイノリティも3割を変えたら組織文化が変わるという考え方です。インサイトフルな人が組織で3割まで増えたら、組織文化も自ずと変わっていくのではないかと思っています。 インサイトフル研修を企画したDX人材開発部門をはじめ、全社の各部門に小さな炎が灯っているので、組織全体がOSがアップデートされた感覚になるまでもう少し、大松さんの言葉に励まされながら推進していきたいと思います。
―――「黄金の3割」を実現できるよう、微力ながら今後もサポートさせていただけると幸いです。今日はありがとうございました。